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観光景観 / 田辺・熊野本宮・川湯温泉

川を掘ると、温泉になる

熊野の川原で、人が湯につかっていた。川の水と地中の熱が出会う場所では、自然に合わせて風呂をつくる。

川湯温泉の大塔川。河原に人々が集まり、川沿いには温泉旅館が建つ
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河原が、風呂になっている

熊野本宮近くの大塔川。川原で人が腰を下ろしている。川遊びかと思えば、砂利の間から湯気が上がっている。なんと、ここは川そのものが温泉なのだ。

砂利の間から泡がぷくぷくと上がる。近くには旅館が並ぶのに、この温泉で一番目を引くのは、立派な浴槽ではなく、何の変哲もない河原だった。

熱い湯と冷たい川の境目

川底から湧く温泉は熱い。熊野本宮観光協会によると、源泉はおよそ73度もある。ところが、そのすぐ横には冷たい川の水が流れている。

砂利を寄せてくぼみをつくり、熱い湯に冷たい川の水を混ぜる。湯が熱ければ川の水を入れ、ぬるければ湧き出す場所を探す。自分で湯加減をつくるなんて、なんとも楽しそうだ。

こんなことができるのは、地下から湧く熱い水と、川原の砂利、清流が同じ場所にあるからだ。地下水が深く巡り、岩の割れ目を通って上がってきた熱が、最後に川原で人を温める。

湯船まで、川と一緒に変わる

雨が増えれば、川の水位が上がる。せっかく掘った湯船も流れに隠れてしまう。いつもの場所に、いつもの温度のお湯があるとは限らない。

冬には大きな露天風呂「仙人風呂」が登場するが、これも季節と川の状態に合わせた楽しみだ。川原を使わせてもらっている以上、自然の変化に付き合うしかない。

考えてみれば、そこが面白い。温泉街なら浴槽をいつも同じ状態に保つものだと思っていた。でも川湯では、川が変われば湯船も変わる。

自然に合わせるという贅沢

川原に人が集まり、湯気の上がる場所を探し、温度を確かめながら入っていく。ずいぶん素朴な入浴方法なのに、その体験を求めて遠くから人が訪れる。

温泉の熱も、清流も、砂利も、この土地に元からあったものだ。人はその組み合わせに気づき、掘る、混ぜる、浸かるという簡単な方法で楽しみをつくった。

温泉の熱も、川の冷たさも、砂利の手ざわりも、この土地のものだ。人は川を完全に制御する代わりに、その日の川と折り合いながら湯につかる。だからこそ、ここでしか味わえない温泉になる。